大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和42年(く)58号 決定

申立人 大井賢治

決  定 〈申立人氏名略〉

右の者からなされた裁判の執行に関する異議の申立事件につき、昭和四二年四月二五日東京地方裁判所がなした申立棄却決定に対し、申立人から即時抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件即時抗告を棄却する。

理由

本件申立の要旨は、申立人は、昭和四〇年三月一六日東京地方裁判所において、詐欺、窃盗罪により懲役三年(未決九〇日通算)に処され、同月二六日該判決の確定をみて目下受刑中のものであるが、当時検察官のなした右刑の執行の指揮は、刑訴法四七三条本文により執行指揮書にいわゆる調書判決の謄本を添えてなされたものであるところ、これより先、申立人において、右判決の宣告された翌日たる同月一七日同裁判所に対し、判決書の謄本の請求をしたので、同裁判所としては、刑訴規則二一九条一項但書の制限にしたがい、もはや調書判決をもつて判決書に代えることを許されず、当然判決書を作成することを要し、もとより刑の執行も、判決書の謄本または抄本を執行指揮書に添えてなさないかぎり、刑訴法四七三条本文に違背するものであるから、右のように調書判決の謄本を添えてなされたに過ぎない本件刑の執行は違法たるを免れないにかかわらず、原決定は、一応「本件では判決確定前に判決書の謄本請求がなされているのであるから、本来ならば判決書の謄本または抄本が作成されるべきであつたものといいうる」としながら、なお、「前記調書判決謄本写しおよび当裁判所が確認した同調書原本によれば少くとも同月二七日以前に調書判決原本が作成され、外部的にも成立しているものと認められるから」という理由で「その効力を直ちに否定することは許されない」とし、かつ「したがつてその謄本を添えてなされた検察官の執行指揮は違法とはいえない」旨判断した。しかしながら、このように「外部的に成立する」などということは法律上ありえないところであるのみならず、何らその法的根拠も示されていないので、原決定は違法、不当であり、ここにこれが是正を求めるため、即時抗告に及ぶ次第である、というのである。

よつて、関係記録を調査して、原決定の当否につき次のとおり判断する。

なるほど本件判決の確定前における昭和四〇年三月一七日(判決宣告の翌日)に、申立人から当時在監中の東京拘置所係官に対して判決謄本下付申請書が差し出され、次いで翌一八日これが東京地方裁判所刑事事件係書記官に逓送されたことは明らかである以上、同裁判所においては、刑訴規則二一九条一項但書の「判決宣告の日から一四日以内でかつ判決の確定前に判決書の謄本の請求があつたとき」に該当する場合であるから、いわゆる調書判決をもつて判決書に代えることができないことは、同条項の解釈上一点疑いの余地がない。すなわち、かの、たとえ判決宣告の日から一四日を経過した後に判決書の謄本の請求があつても、ただ調書判決の謄本を交付すれば足りる場合と、全くその選を異にするわけである。したがつて、本件においては、判決宣告後一四日以内の同四〇年三月二六日に判決の確定をみているけれども、あくまでも申立人の前記判決書謄本請求があつたために、必ず判決書を作成することを要したのであり、なお、その刑の執行も、検察官の執行指揮書およびこれに添えられた該判決書の謄本または抄本によつて行われなければならなかつた筋合である。故に原決定が、所論のような理由をもつてこの点に関する申立人の主張を排斥したのは失当といわなければならない。

しかしながら、本件判決は、前記のとおり控訴提起期間の満了をも待たずして確定をみたのであるから、その刑の執行はおよそ急速を要したものと推認せられるところ、このような場合の応急措置として、刑訴規則五七条二、三、四項による便法が認められており、同条項に規定する簡便な抄本もまた、もち論刑訴法四七三条本文にいう抄本の一種類にほかならないから、そして、本件調書判決の謄本は、少くともその形式・内容ともに右簡便な抄本よりも優つており(たとえ「その記載が相違ないことを証明する」旨の裁判官の附記がなくても、その原本には判決をした裁判官が、裁判所書記官とともに署名押印していることは原決定も認めているとおりである。)、結局刑訴規則三六条一項本文によつて、速やかに検察官に送付さるべき同規則五七条二項以下所定の抄本としての効力を認めるのが相当であるから、これによつて行われた検察官の本件執行指揮もまた有効と解しなければならない。

されば、原決定が申立人の主張を排斥したのは、理由こそ異なれ当裁判所と結論を同じくするものであつて正当というべく、これを不服とする本件即時抗告はその理由なきに帰する。

よつて刑訴法四二六条一項によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 堀義次 内田武文 金子仙太郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例